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プリリツェフ エポキシ化/Prilezhaev Epoxidation

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⏱ 30秒サマリー

  • 何をする反応か — アルケン(オレフィン)に過酸を作用させ、C=C二重結合の片面から酸素原子1個を渡してエポキシド(オキシラン)に変える反応。
  • 何ができるか — 元のアルケンの cis/trans 幾何をそのまま保持したエポキシドが、1工程・室温付近で得られる。
  • いつ使うか — 電子豊富なアルケン(多置換アルケン、エノールエーテル、アリルアルコールなど)をラセミ体のエポキシドに変えたいとき。多数のアルケンを持つ複雑分子から「最も電子豊富な1本だけ」を選んで酸化したいときにも第一選択となる。

概要

過酸(peracid, peroxy acid)を用いてオレフィンをエポキシドに変換する反応で、1909年に N. Prileschajew(プリリツェフ)が過安息香酸を用いて報告した[1]。命名法上の正式表記は Prilezhaev(Prileschajew)反応/エポキシ化で、単に「過酸によるエポキシ化」とも呼ばれる。1949年および1953年の Swern による総説で過酸化学として体系化され[31][32]、1964年に Schwartz と Blumbergs が m-クロロ過安息香酸(mCPBA) を汎用試薬として確立して以来[6]、実験室でエポキシドを作る最も手早い方法として定着している。

mCPBA が好まれるのは、扱いやすい固体(市販品は通常 65〜77% 純度で、残りは m-クロロ安息香酸と水)であること、多くの有機溶媒に溶けること、そして反応が室温付近・短時間で進むことによる。ただし「爆発性に乏しい試薬」と理解するのは危険である(「実験のコツ・テクニック」参照)。ジオキシラン(DMDO/TFDO)も同じ「求電子的な酸素1原子の移動」で同様の目的に使えるが、無水条件では DMDO のほうが過酢酸よりずっと速いなど、反応性プロファイルは同一ではない[24]

生成するエポキシドは、求核剤による開環(1,2-ジオール、アミノアルコール、ハロヒドリンなど)、Meinwald 転位によるカルボニル化合物への異性化[41]、酸触媒によるカチオン環化のトリガーなど、後続変換の起点として極めて汎用性が高い。

反応機構

反応の駆動力は、過酸の O–O 結合(弱い)が切れてカルボン酸(安定)になることにある。したがってアルケン側は求電子攻撃を受ける「電子供与体」として働き、電子豊富なアルケンほど速い。過酢酸を用いた古典的な相対速度は、エチレン 1/プロペン 22/スチレン 59/イソブテン 484/2-ブテン 489 と報告されている[2]。この電子要求性が、多官能な複雑分子の中から特定のアルケンだけを選んで酸化できる根拠になっている。

過酸の末端酸素がアルケンの π 面に垂直に近づき、O–O σ* に π 電子が流れ込む。長らく Bartlett(1950)が提唱した左右対称の「バタフライ(butterfly)遷移状態」で説明されてきたが、現代の計算はより細かい像を与える。

(1) 過酸の配座

脂肪族・芳香族の過酸は、カルボン酸と異なり二量体を作らず、O–H が同じ分子内のカルボニル酸素と5員環的な水素結合を組んだ syn-planar(s-cis)型の単量体として存在する[4]。この分子内水素結合があるため、1分子の過酸だけで酸素移動が完結できる。

(2) 求電子的な酸素移動
  • Houk らの DFT では、過ギ酸を含む4種の酸素供与体すべてで遷移状態は spiro 型(過酸面が C=C 軸に垂直)であり、置換基によって非同期性が変化する[13]
  • Bach らの高精度計算では、プロペンやイソブテンでも協奏的ながら わずかに非対称(Markovnikov 型) で、2本の C–O 距離差は QCISD レベルで 0.02〜0.04 Å 程度。メチル置換で活性化障壁は 18.8 → 13.7 kcal/mol に下がり、電子求引基では約 21 kcal/mol に上がる[18]
  • 「spiro か planar か」は長く論争になった。多配置法から「著しく非対称・ジラジカル性の planar 型」を主張する報告もあるが[22]、Bach と Dmitrenko は active space の選択が結論を左右することを示し、動的相関を適切に取り込むと spiro が 4〜5 kcal/mol 有利であると結論している[23]。ただしポテンシャル面は非常に平坦(QCISD で spiro と planar の差はわずか 0.3 kcal/mol)[15]で、基質によっては planar 型が最安定になる場合も報告されており、「常にどちらか」と断定できる問題ではないと考えられる。エポキシ化の酸素移動機構をめぐる論争点は総説にも整理されている[36]
(3) プロトン移動は「後」

教科書図では酸素移動とプロトン移動が同時に描かれることが多いが、計算はこれを支持しない。中性の過酸系では遷移状態の O–H 距離はほぼ未変化(1.003 Å)であり、プロトン移動は障壁を越えた後に起こる[15]。2019年に Klein、Knizia、Rzepa は intrinsic bond orbital 解析により、この反応を正しく巻矢印で描くには 4本ではなく7本必要であること、遷移状態通過後に共鳴安定化された「隠れたイオン性中間体(hidden ionic intermediate)」が現れること、そして観測される同位体効果はプロトン移動ではなく sp²→sp³ の再ハイブリダイゼーションに対応することを示した[29]。「協奏的機構」という記述は誤りではないが、現在は「協奏的かつ強く非同期(concerted but highly asynchronous)」と書くのがより正確と考えられる。

(4) 立体特異性

単一の遷移状態を経て2本の C–O 結合が同一面から形成されるため、アルケンの cis/trans 幾何は生成物にそのまま反映される。

(5) 実験的裏付け

二次重水素同位体効果は、Cβ–O 結合形成が相当進む一方で Cα 側の変化がほぼゼロという非対称性を示した[8]。¹³C 同位体効果による遷移状態幾何の直接決定も行われている[14]。またイオン化ポテンシャルとの速度相関の再検討からは、遷移状態での過酸→アルケン間の電子移動は脂肪族で約8%、芳香族で約4%にとどまり、炭素上に大きな正電荷は発達していないことが示されている[19]

(6) 変法の機構

 酸を共存させると過酸がプロトン化(あるいは酸とクラスターを形成)して障壁が大きく下がる。実験でも (Z)-シクロオクテンにトリフルオロ酢酸 10 当量で 6.8 倍の加速が観測される[15]。逆に、塩基性水溶液中で過酸をアニオンにすると求電子性ではなく両性的(ambiphilic)な酸素供与体になり[21]、mCPBA/KOH 系では電子不足オレフィンの求核的エポキシ化が可能になる[25]

特徴・適用範囲・類似反応との比較

強み:
  • 1工程・室温付近・単一操作でアルケンからエポキシドが得られる。触媒調製も無水条件も不要で、探索段階での「まず試す」手法として最速。
  • 立体特異的。アルケン幾何が保持される。
  • 電子要求性による化学選択性が高い。 分子内に複数のアルケンがある場合、最も電子豊富(最も置換の多い)ものが優先的に酸化される。実際に近年の全合成では、多環性中間体の四置換アルケンだけを選んでエポキシ化する例[53]、共役ジエノンの Δ6,7 だけを選ぶ例[57]、三置換アルケンを外環メチレンより優先する例[47] が報告されている。
  • 近傍の遊離ヒドロキシ基による面選択性制御(Henbest 則[5]。アリル位・ホモアリル位に無保護の OH があると、水素結合を介して OH と同じ面(syn)からエポキシ化が進む。総説では「基質配向型反応」の代表例として体系的に整理されている[33]。この選択性の起源は、計算によれば 過酸の比較的酸性な O–O–H プロトンがアルコール酸素へ水素結合することによる遷移状態の安定化(約 2.1 kcal/mol)であり[17]、教科書に見られる「アルコール OH が過酸のカルボニル酸素へ水素供与する」という描き方は逆向きである点に注意したい。2-シクロヘキセン-1-オールでは、過酸のペルオキシ酸素と水素結合した syn, exo 型遷移状態が明確に最安定と計算されている[20]。なお選択性は水素結合だけでなく 1,3-アリル歪みとも競合し、両者の兼ね合いで決まる[34]

  • エポキシドを「潜在カチオン/潜在カルボニル」として使うカスケードの入口になる。酸触媒スピロ環化[53]、開環/塩素化/脱水カスケード[57]、エポキシド開裂による C–C 切断[52] などが実例。
弱み・注意点:
  • 化学量論量の酸化剤が必要で、原子効率が悪い。副生する m-クロロ安息香酸の除去は実務上の最大の手間である。
  • 副生カルボン酸によるエポキシドの開環・転位が起こりうる(ジオール、ジオールモノエステル、Meinwald 転位生成物など)。緩衝が事実上必須の場面が多い[7]。テルペン類のような酸感受性エポキシドでは過酸は不適とされる[39]
  • 電子不足アルケン(エノン、α,β-不飽和エステル、ニトロアルケンなど)は反応しない/極端に遅い。この領域は 過酸による求核的エポキシ化(Weitz–Scheffer 型)や、より求電子的なトリフルオロ過酢酸[3]、mCPBA/KOH[25] が補完する。
  • 他の官能基が競合酸化される。 スルフィド(→スルホキシド/スルホン)はアルケンより圧倒的に速い。第三級アミン・ピリジンは N-オキシド化し、ケトンはBaeyer–Villiger酸化、アルデヒドはカルボン酸化を受ける[28]。mCPBA反応の多様さは総説にまとめられている[37][42]
  • 末端アルケンは反応が遅い[2]
  • ラセミ体しか得られない
  • 安全性・輸送規制。工業スケールでの評価では、温度暴走リスクと開環による選択性低下が Prilezhaev 法の主な欠点として挙げられている[38]
反応 主な前駆体 生成物の型 長所 短所・注意 使いどころ
プリリツェフ エポキシ化(過酸) アルケン + mCPBA/過酢酸/過ギ酸/TFPAA/MMPP ラセミ体エポキシド(cis/trans 保持) 固体で扱いやすい、1工程・室温、立体特異的、電子豊富アルケンへの高い化学選択性 化学量論的、副生酸で開環、S・N・アルデヒド・ケトンが競合酸化、爆発性と輸送規制、原子効率不良 電子豊富アルケン。ラセミ体で良い場合。多オレフィン基質の部位選択的酸化
ジオキシラン酸化(DMDO/TFDO) アセトン(またはトリフルオロアセトン)+ Oxone[12] ラセミ体エポキシド 中性条件、副生物はケトンのみで後処理が容易、無水条件では過酢酸より速い[24]、TFDO は DMDO より約10⁵倍速い[24] 用時調製が必須、揮発性ペルオキシドとしての爆発リスク 酸感受性のエポキシドを作りたいとき、C–H 酸化も狙うとき
史 不斉エポキシ化 アルケン + フルクトース由来ケトン + Oxone 光学活性エポキシド trans-/三置換オレフィンに強い、金属フリー、中性〜弱塩基性 触媒の調製が必要、pH 管理、cis-二置換は苦手 trans-/三置換オレフィンの不斉エポキシ化
ジェイコブセン・香月エポキシ化 非官能化オレフィン + Mn(salen) + 酸化剤 光学活性エポキシド 配向性官能基が不要cis-二置換・共役系に強い 終端酸化剤に mCPBA を使う場合は過酸と同じ安全配慮が必要 官能基を持たない cis-オレフィン、共役オレフィン
シャープレス・香月不斉エポキシ化 アリルアルコール + Ti(OiPr)₄/酒石酸エステル/TBHP 光学活性2,3-エポキシアルコール 高 ee・高予測性。Henbest 則の「OH 配向性」をエナンチオ制御に格上げした手法 アリルアルコール基質限定、TBHP の爆発性、低温 アリルアルコールを光学活性エポキシアルコールにしたいとき
さらにグリーンな代替法

H₂O₂ を酸化剤とする触媒的エポキシ化(メチルトリオキソレニウム、タングステン酸/Venturello 型、Ti-シリカライト)は副生物が水のみで原子効率が最良であり、総説にまとめられている[35]。近年は酵素(非特異的ペルオキシゲナーゼ)による末端アルケンのエポキシ化で 開環が全く観測されないことが示され[48]、Mn 触媒/過酢酸のフロー系[49]、電気触媒的エポキシ化(>99% 選択性)[56] も報告されている。植物油の過ギ酸エポキシ化(バイオポリオール原料)は「Prilezhaev 法」の名で工業的に実施されており、バッチから連続への移行が総説されている[40]

反応例

シプロテロン アセタートの Δ6,7 選択的エポキシ化(バッチ/フロー条件)[57]

17α-ヒドロキシ-1α,2α-シクロプロピル-Δ4,6-ジエン-3-オン 20-ケタールに対し、共役ジエノンの Δ6,7 アルケンのみを化学選択的に mCPBA でエポキシ化して 6α,7α-エポキシドを 72%で得ている。バッチ条件は mCPBA / CH₂Cl₂ / 室温 / 18 時間必要だが、同じ変換をフロー化すると CH₂Cl₂–DMF (1:1)、110 °C、6.0 bar 背圧、滞留時間 20 分で完全転化し、収率は同じ 72% であった。得られたエポキシドは 開環/塩素化/脱水/脱保護のカスケード(DMA·HCl)で 6-クロロ-Δ4,6-ジエン-3-オン骨格に変換され(67%)、アセチル化を経てシプロテロン アセタートに至る。

シクロパミン合成における四置換アルケンの選択的エポキシ化[53]

多環性中間体の C13–C17 四置換二重結合のみを、より電子豊富なアルケンとして化学選択的に mCPBA でモノエポキシ化。α面優先で 60%。−15 °C かつ反応時間と温度の厳密な制御が過剰酸化を抑える鍵とされる。生成したエポキシドは酸触媒環化によりスピロ E 環を構築する。

Henbest 則による β 面選択的エポキシ化 [50]

19β,28-エポキシ-18αH-オレアナン骨格のアリルアルコール類に対し、3β-ヒドロキシ基が syn 配向基として働き、β-エポキシドを単一ジアステレオマーとして与える。

UHP–TFAA(系中発生トリフルオロ過酢酸)による部位選択的エポキシ化[47][52][54]

  • (−)-シコッシン → (−)-エポキシシコッシン:分子内の複数のアルケンのうち、より電子豊富な三置換アルケンを外環メチレンより優先して化学・立体選択的にエポキシ化[47]
  • (−)-ジガデニン合成:C15–C16 オレフィンを位置・ジアステレオ選択的にエポキシ化(0 °C)、後続のエポキシド開裂まで2工程通算 57%[52]
  • Daphniphyllum アルカロイド合成:外環(exocyclic)二重結合を選択的にエポキシ化(−20 °C)[54]
(−)-シヌロクモジン C 合成における立体障害支配のエポキシ化[55]

mCPBA が立体障害の小さい下面から優先的に反応し、α-エポキシドを 87% で与える。

保護基で Henbest 配向を切る設計[51]

(+)-フェイナノイド A 合成では、遊離アルコールのままでは選択性が得られなかったため TMS 保護して立体障害支配に切り替え、mCPBA が立体障害の小さい Re 面から反応して単一ジアステレオマーを 65% で与えた。

末端アルケンのエポキシ化

末端アルケンは電子密度が低く過酸法では遅い。Mn(II)/2-ピコリン酸(Mn 0.05 mol%)+過酢酸のフロー系では 1-オクテンを8時間連続運転して 1,2-エポキシオクタンを 16.32 g(2.04 g/h)得ており[49]、酵素(Marasmius rotula 由来 UPO)では 1,2-エポキシテトラデカンが選択率 96%(ヒドロキシ化体 4%)で得られ、開環は全く観測されなかったと報告されている(アセトン 60% 共溶媒、H₂O₂ 1 mM、pH 5.5)[48]

工業/プロセススケールでの実施例

  • マグネシウムモノペルオキシフタレート(MMPA)による meso-エポキシドの調製を 11 kg スケールで実施[45]
  • cis-アリルカルバマートに対する 系中発生トリフルオロ過酢酸での高ジアステレオ選択的エポキシ化を 100 g スケールで実施(HIV-1 プロテアーゼ阻害剤 LB71350 のプロセス開発)[44]
  • mCPBA 8 kg を用いたパイロットプラント運用と、そのための安全性最適化[46]

実験手順

標準的な実施例(緩衝あり)

以下は Anderson と Veysoglu が報告した アルカリ二相系の考え方[7]と、Organic Syntheses 収載手順[60]から抽出し、日本語の手順として再構成したものである。

  1. アルケンを CH₂Cl₂ に溶かす(0.1〜0.5 M 程度)。
  2. 微粉化して乾燥した KHCO₃(または NaHCO₃)を、mCPBA に対して 2.5 当量程度、先に加える。遊離の m-クロロ安息香酸が系中に蓄積するのを防ぐのが目的である[60]。飽和 NaHCO₃ 水溶液との二相系にしてもよい[7]
  3. 氷浴で冷却し、激しく撹拌しながら mCPBA の 0.5 M CH₂Cl₂ 溶液を 2〜3 時間かけて滴下する。滴下する理由は、遊離 m-クロロ安息香酸の急速な生成による中間体エポキシドの加水分解を避けるためである[60]。含水 mCPBA を使う場合は、あらかじめ CH₂Cl₂ 溶液を MgSO₄ で乾燥・濾過してから用いる方法も報告されている[61]
  4. TLC でアルケンの消費とエポキシドの生成を追う。アルケンが消えていてもエポキシドができているとは限らないため、時間ではなく TLC で判断する。
  5. 反応終了後、0.5 M Na₂S₂O₃ 水溶液を加えて 30 分間激しく撹拌し、残存過酸化物を分解する[60]
  6. 飽和 NaHCO₃ 水溶液、次いで飽和 NaCl 水溶液で洗い、MgSO₄ で乾燥、減圧濃縮する。
  7. 特に大量の過酸化物を扱う操作とその後処理は、安全シールドの背後で行う。反応は発熱性であり、効率的な撹拌と冷却を確保する[60]
変法A:医薬品中間体のバッチ/フロー条件(緩衝なし)[57]

シプロテロン アセタート合成では mCPBA / CH₂Cl₂ / 室温 / 18 時間で目的の 6α,7α-エポキシドが 72% で得られている。同じ変換のフロー条件は CH₂Cl₂–DMF (1:1)、110 °C、6.0 bar 背圧、滞留時間 20 分で、収率は同じ 72%。過酸を高温で使う条件がフロー合成と組み合わせて初めて成立している点が重要である。バッチで同じ温度を試みてはならない。

変法B:Henbest 型エポキシ化[50]

基質を CH₂Cl₂ に溶かし、mCPBA を 6 当量加えて室温で 48 時間撹拌する(緩衝なし)。トリテルペン系アリルアルコールでこの条件が用いられ、水酸基と同じ面のエポキシドが単一ジアステレオマーとして 52〜80% で得られている。副生成物として α,β-エポキシケトンやアリル位酸化体が各 2〜6% 生じる。保護アリルアルコールでも syn 選択性が欲しい場合、mCPBA では立体支配に切り替わってしまうが、より酸性の強いトリフルオロ過酢酸を使うとエーテル酸素への水素結合が成立して syn 選択性が保持されると報告されている[10]

変法C:酸感受性基質・電子不足アルケン向けの選択肢
  • 酸感受性エポキシド: アルカリ二相系[7]、mCPBA–KF 錯体(KF が m-クロロ安息香酸を捕捉して系を実質中性に保つ)[9]、MMPP(Mg 塩なので副生酸が緩衝された形で出る)[11]、水中での MMPP(シクロアルケノールで高ジアステレオ選択性)[16]、シリカ担持過酸(濾過と濃縮のみで単離でき開環が抑制される)[26]、Triazox(副生物の酸性度が低く塩基添加が不要)[27]、などの活用を検討する。
  • 電子不足アルケン: トリフルオロ過酢酸(副生 TFA が強酸なので Na₂HPO₄ による緩衝が必須)[3]、mCPBA/KOH(求核的エポキシ化)[25]、あるいは 過酸による求核的エポキシ化、などの活用を検討する。

実験のコツ・テクニック

mCPBA の純度と爆発性

mCPBAは加算の中でも比較的爆発性に乏しいが、これは市販品に限った話である。Aldrich の技術資料は「95〜100% 品は衝撃または火花で起爆しうる。85% 品は衝撃感受性ではないが、加熱により激しく分解しうる」と明記している。市販品はm-クロロ安息香酸(最大15%)と水が希釈剤として働いているため扱いやすい。したがって「精製・乾燥する」という行為自体が危険側に振れる。実際、mCPBA に関する予期せぬ事故はプロセス化学の場から報告されている[58][59]。パイロットスケールでは、高濃度 mCPBA/CH₂Cl₂ 溶液そのものの本質的な不安定性が問題として同定されている[46]

含量は使う前に測る

市販品の表示は 65〜77% と幅があり、ロットや保管状態で有効酸素量は変わる。ヨウ素滴定で実含量を確認してから当量を決めるのが実務慣行として定着している(詳細は外部リンク参照)。乾固させない・金属スパーテルを使わない、といった注意もラボマニュアルで共通して挙げられている。

溶媒の選択

過酸の反応性は分子内水素結合(syn-planar 配座)に依存するため[4]エーテル・アルコール・DMSO のような水素結合受容性の溶媒は過酸の分子内水素結合を奪って反応を遅くする。CH₂Cl₂・CHCl₃・ベンゼンのような非配位性溶媒が標準となる理由である。溶解度も判断材料になり、ヘキサンにほとんど溶けないため、「ヘキサンを加えて mCPBA と m-クロロ安息香酸を析出させる」ことが精製テクニックになる。また、水にほとんど溶けないため、水洗だけでは除去しづらい。なお米国 EPA による CH₂Cl₂ 規制を受けて、ベンゾトリフルオリド(BTF)および 2-MeTHF が mCPBA エポキシ化の代替溶媒として実証されている[30]

副生 m-クロロ安息香酸(mCBA)の除去

実務上、下記の組み合わせが推奨されることが多い。

  • 反応液を 0 °C に冷やして mCPBA/m-クロロ安息香酸を析出させ、濾去してから水層処理に移る。
  • 重曹水洗浄だけでは残りやすいため、チオ硫酸ナトリウム(または亜硫酸水素塩・メタ重亜硫酸塩)→ 重曹 → 水の順で洗浄すると通りが良い。
  • ンプン紙/ヨウ素系試験紙で過酸化物の残存を確認する(濃縮時の事故を避ける)。
  • エポキシドはシリカゲル上で分解しうるため、その場合はシリカゲルカラムより Kugelrohr(減圧蒸留)や Florisil も検討するとよい。
  • 原理的解決策として、シリカ担持過酸(workupが濾過と濃縮のみ)[26]Triazox[27]が開発されている。
酸は諸刃の剣

副生カルボン酸や添加した酸は反応を加速する[15]一方で、生成したエポキシドの開環・転位も加速する。どちらを優先させるべきかで緩衝の有無を決める。

反応系のモニタリング

アルケンが消費されてもエポキシドができているとは限らない(開環・転位・過剰酸化が並行しうる)ため、規定時間で止めるのではなくTLC で追跡することが推奨される。

競合酸化を避ける

同一分子内にスルフィド、第三級アミン、アルデヒド、ケトンがあると、それぞれスルホキシド化・N-オキシド化・カルボン酸化・Baeyer–Villiger が競合する[28][37]。二級アルコールの過剰酸化も起こりうる。アルケン以外の酸化されやすい部位は保護するか、別の酸化剤(DMDO、H₂O₂/触媒、酵素)を検討する。

低温・短時間が効く場面

多置換アルケンを部位選択的に酸化する場合、−15 〜 −20 °C 程度の低温と反応時間の厳密な制御が過剰酸化(ビスエポキシ化)を抑える鍵とされる[53][54]

廃棄・クエンチ

大量合成の後は残存過酸がないか念入りに確認する。チオ硫酸ナトリウム水溶液などの還元剤でクエンチし、ヨウ素系試験紙を活用する。

参考文献

【原著】
  1. Prileschajew, N. Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1909, 42, 4811–4815. DOI: https://doi.org/10.1002/cber.190904204100 (過酸によるエポキシ化の初報)
  2. Swern, D. J. Am. Chem. Soc. 1947, 69, 1692–1698. DOI: https://doi.org/10.1021/ja01199a037 (置換基効果の電子論的解釈)
  3. Emmons, W. D.; Pagano, A. S. J. Am. Chem. Soc. 1955, 77, 89–92. DOI: https://doi.org/10.1021/ja01606a029 (トリフルオロ過酢酸。電子不足アルケンにも有効)
  4. Swern, D.; Witnauer, L. P.; Eddy, C. R.; Parker, W. E. J. Am. Chem. Soc. 1955, 77, 5537–5541. DOI: https://doi.org/10.1021/ja01626a030 (過酸が分子内水素結合をもつ単量体であることの実験的証拠)
  5. Henbest, H. B.; Wilson, R. A. L. J. Chem. Soc. 1957, 1958–1965. DOI: https://doi.org/10.1039/JR9570001958 (Henbest 則の原著)
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  8. Hanzlik, R. P.; Shearer, G. O. J. Am. Chem. Soc. 1975, 97, 5231–5233. DOI: https://doi.org/10.1021/ja00851a034 (二次重水素同位体効果。遷移状態の非対称性)
  9. Camps, F.; Coll, J.; Messeguer, A.; Pujol, F. J. Org. Chem. 1982, 47, 5402–5404. DOI: https://doi.org/10.1021/jo00148a037 (mCPBA–KF 系)
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  12. Murray, R. W.; Jeyaraman, R. J. Org. Chem. 1985, 50, 2847–2853. DOI: https://doi.org/10.1021/jo00216a007 (DMDO の調製と反応。比較対象)
  13. Houk, K. N.; Liu, J.; DeMello, N. C.; Condroski, K. R. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 10147–10152. DOI: https://doi.org/10.1021/ja963847x (spiro 型遷移状態、非同期性、TS の柔軟性)
  14. Singleton, D. A.; Merrigan, S. R.; Liu, J.; Houk, K. N. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 3385–3386. DOI: https://doi.org/10.1021/ja963656u (¹³C 同位体効果による遷移状態幾何の実験的決定)
  15. Bach, R. D.; Canepa, C.; Winter, J. E.; Blanchette, P. E. J. Org. Chem. 1997, 62, 5191–5197. DOI: https://doi.org/10.1021/jo950930e (酸触媒経路。プロトン移動は障壁通過後。PES の平坦さ)
  16. Ye, D.; Fringuelli, F.; Piermatti, O.; Pizzo, F. J. Org. Chem. 1997, 62, 3748–3750. DOI: https://doi.org/10.1021/jo9623604 (水中 MMPP でのシクロアルケノールの高ジアステレオ選択的エポキシ化)
  17. Bach, R. D.; Estévez, C. M.; Winter, J. E.; Glukhovtsev, M. N. J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 680–685. DOI: https://doi.org/10.1021/ja9717976 (Henbest 則の起源。水素結合の向きは「過酸→アルコール」)
  18. Bach, R. D.; Glukhovtsev, M. N.; Gonzalez, C. J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 9902–9910. DOI: https://doi.org/10.1021/ja980495g (置換基の立体電子効果と障壁の定量)
  19. Kim, C.; Traylor, T. G.; Perrin, C. L. J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 9513–9516. DOI: https://doi.org/10.1021/ja981531e (速度とイオン化ポテンシャルの相関の再検討。電子移動は 4〜8% のみ)
  20. Freccero, M.; Gandolfi, R.; Sarzi-Amadè, M.; Rastelli, A. J. Org. Chem. 2000, 65, 8948–8959. DOI: https://doi.org/10.1021/jo000900y (2-シクロヘキセン-1-オールの面選択性の DFT 解析)
  21. Washington, I.; Houk, K. N. Org. Lett. 2002, 4, 2661–2664. DOI: https://doi.org/10.1021/ol026105j (過酸アニオンは ambiphilic)
  22. Okovytyy, S.; Gorb, L.; Leszczynski, J. Tetrahedron Lett. 2002, 43, 4215–4219. DOI: https://doi.org/10.1016/S0040-4039(02)00747-5 (planar/ジラジカル型 TS を主張した異論)
  23. Bach, R. D.; Dmitrenko, O. J. Phys. Chem. A 2003, 107, 4300–4306. DOI: https://doi.org/10.1021/jp034391q (spiro vs planar の再評価。必要な理論レベル)
  24. Bach, R. D.; Dmitrenko, O.; Adam, W.; Schambony, S. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 924–934. DOI: https://doi.org/10.1021/ja026882e (過酸 vs DMDO/TFDO の反応性の定量比較)
  25. García Ruano, J. L.; Fajardo, C.; Fraile, A.; Martín, M. R. J. Org. Chem. 2005, 70, 4300–4306. DOI: https://doi.org/10.1021/jo050131o (mCPBA/KOH による求核的エポキシ化)
  26. Mello, R.; Alcalde-Aragonés, A.; González Núñez, M. E.; Asensio, G. J. Org. Chem. 2012, 77, 6409–6413. DOI: https://doi.org/10.1021/jo300533b (シリカ担持過酸。濾過と濃縮のみで単離)
  27. Yamada, K.; Igarashi, Y.; Betsuyaku, T.; Kitamura, M.; Hirata, K.; Hioki, K.; Kunishima, M. Org. Lett. 2018, 20, 2015–2019. DOI: https://doi.org/10.1021/acs.orglett.8b00560 (Triazox。単離可能でベンチ安定なエポキシ化試薬)
  28. Horn, A.; Kazmaier, U. Eur. J. Org. Chem. 2018, 2018, 2531–2536. DOI: https://doi.org/10.1002/ejoc.201701645 (精製 mCPBA によるアルデヒド酸化。競合酸化の理解に)
  29. Klein, J. E. M. N.; Knizia, G.; Rzepa, H. S. ChemistryOpen 2019, 8, 1244–1250. DOI: https://doi.org/10.1002/open.201900099 (教科書機構の更新。巻矢印は7本必要、隠れたイオン性中間体)
  30. Paramkusham, S.; Anderson, G. A.; Eisfelder, A. S.; Vukelich, O. M.; Wenzel, G. R.; Mohan, R. S. Tetrahedron Green Chem 2026, 8, 100102. DOI: https://doi.org/10.1016/j.tgchem.2026.100102 (CH₂Cl₂ 代替として BTF・2-MeTHF)
【総説】
  1. Swern, D. Chem. Rev. 1949, 45, 1–68. DOI: https://doi.org/10.1021/cr60140a001 (有機過酸の総説)
  2. Swern, D. Org. React. 1953, 7, 378–434. DOI: https://doi.org/10.1002/0471264180.or007.07 (基本文献)
  3. Hoveyda, A. H.; Evans, D. A.; Fu, G. C. Chem. Rev. 1993, 93, 1307–1370. DOI: https://doi.org/10.1021/cr00020a002 (基質配向型反応の総説。Henbest 則の位置づけ)
  4. Adam, W.; Wirth, T. Acc. Chem. Res. 1999, 32, 703–710. DOI: https://doi.org/10.1021/ar9800845 (水素結合と 1,3-アリル歪みによる選択性制御)
  5. Lane, B. S.; Burgess, K. Chem. Rev. 2003, 103, 2457–2474. DOI: https://doi.org/10.1021/cr020471z (H₂O₂ を用いる金属触媒エポキシ化)
  6. Deubel, D. V.; Frenking, G.; Gisdakis, P.; Herrmann, W. A.; Rösch, N.; Sundermeyer, J. Acc. Chem. Res. 2004, 37, 645–652. DOI: https://doi.org/10.1021/ar0400140 (酸素移動機構をめぐる長年の論争の整理)
  7. Hussain, H.; Al-Harrasi, A.; Green, I. R.; Ahmed, I.; Abbas, G.; Ur Rehman, N. RSC Adv. 2014, 4, 12882–12917. DOI: https://doi.org/10.1039/c3ra45702h (mCPBA の反応の総説)
  8. Meng, Y.; Taddeo, F.; Freites Aguilera, A.; Cai, X.; Russo, V.; Tolvanen, P.; Leveneur, S. Catalysts 2021, 11, 765. DOI: https://doi.org/10.3390/catal11070765 (工業的エポキシド製造法の比較。Prilezhaev 法の欠点)
  9. Gunam Resul, M. F. M.; Rehman, A.; Saleem, F.; Usman, M.; López Fernández, A. M.; Eze, V. C.; Harvey, A. RSC Adv. 2023, 13, 32940–32971. DOI: https://doi.org/10.1039/d3ra04870e (テルペンのエポキシ化。酸感受性基質での過酸の不適合)
  10. Cogliano, T.; Turco, R.; Di Serio, M.; Salmi, T.; Tesser, R.; Russo, V. Ind. Eng. Chem. Res. 2024, 63, 11231–11262. DOI: https://doi.org/10.1021/acs.iecr.3c04211 (植物油の Prilezhaev エポキシ化。バッチから連続へ)
  11. Zhang, Y.; Hu, B.; Chen, Y.; Wang, Z. Chem. Eur. J. 2024, 30, e202402469. DOI: https://doi.org/10.1002/chem.202402469 (エポキシドの Meinwald 転位の総説)
  12. Varala, R.; Seema, V.; Hussein, M.; Ismail, M. A.; Alam, M. M. Mini-Rev. Org. Chem. 2025, 22, 300–311. DOI: https://doi.org/10.2174/0118756298299464240402045438 (mCPBA による金属フリー酸化の8年分アップデート)
  13. Zheng, J.-F.; Chen, A.; Gao, Y.-J.; Huang, P.-Q. Org. Chem. Front. 2026, 13, 2919–2993. DOI: https://doi.org/10.1039/D6QO00050A (天然物全合成における酸化反応。過酸エポキシ化の最新実施例が網羅されている)
【応用例】
  1. Lee, K. W.; Hwang, S. Y.; Kim, C. R.; Nam, D. H.; Chang, J. H.; Choi, S. C.; Choi, B. S.; Choi, H.-W.; Lee, K. K.; So, B.; Cho, S. W.; Shin, H. Org. Process Res. Dev. 2003, 7, 839–845. DOI: https://doi.org/10.1021/op034062w (系中発生 CF₃CO₃H による 100 g スケールのエポキシ化)
  2. Varie, D. L.; Beck, C. M.; Borders, S. K.; Brady, M. D.; Cronin, J. S.; Ditsworth, T. K.; Hay, D. A.; Hoard, D. W.; Hoying, R. C.; Linder, R. J.; Miller, R. D.; Moher, E. D.; Remacle, J. R.; Rieck, J. A.; Anderson, D. D.; Dodson, P. N.; Forst, M. B.; Pierson, D. A.; Turpin, J. A. Org. Process Res. Dev. 2007, 11, 546–559. DOI: https://doi.org/10.1021/op060225f (MMPA による 11 kg スケールのエポキシ化)
  3. Zhang, X.; Hu, A.; Pan, C.; Zhao, Q.; Wang, X.; Lu, J. Org. Process Res. Dev. 2013, 17, 1591–1596. DOI: https://doi.org/10.1021/op400208b (mCPBA 8 kg のパイロット運用と安全化)
  4. Wang, B.; Liu, Z.; Tong, Z.; Gao, B.; Ding, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 14892–14896. DOI: https://doi.org/10.1002/anie.202104410 (UHP–TFAA による三置換アルケン選択的エポキシ化。エポキシシコッシン)
  5. Babot, E. D.; Aranda, C.; Kiebist, J.; Scheibner, K.; Ullrich, R.; Hofrichter, M.; Martínez, A. T.; Gutiérrez, A. Antioxidants 2022, 11, 522. DOI: https://doi.org/10.3390/antiox11030522 (酵素による末端アルケンのエポキシ化。開環が起こらない)
  6. Ryan, A. A.; Dempsey, S. D.; Smyth, M.; Fahey, K.; Moody, T. S.; Wharry, S.; Dingwall, P.; Rooney, D. W.; Thompson, J. M.; Knipe, P. C.; Muldoon, M. J. Org. Process Res. Dev. 2023, 27, 262–268. DOI: https://doi.org/10.1021/acs.oprd.2c00222 (Mn 触媒/過酢酸の連続フローエポキシ化)
  7. Krainova, G.; Beloglazova, Y.; Dmitriev, M.; Grishko, V. Molecules 2023, 28, 550. DOI: https://doi.org/10.3390/molecules28020550 (Henbest 型 β 面選択的エポキシ化)
  8. Xie, J.; Zheng, Z.; Liu, X.; Zhang, N.; Choi, S.; He, C.; Dong, G. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 4828–4852. DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.2c13889 (TMS 保護で Henbest 配向を消し Re 面選択に切り替え。フェイナノイド A)
  9. Guo, Y.; Lu, J.-T.; Fang, R.; Jiao, Y.; Liu, J.; Luo, T. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 20202–20207. DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.3c08039 (UHP–TFAA、0 °C。ジガデニン)
  10. Shao, H.; Liu, W.; Liu, M.; He, H.; Zhou, Q.-L.; Zhu, S.-F.; Gao, S. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 25086–25092. DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.3c10362 (四置換アルケンの α 面選択的エポキシ化 −15 °C/60%。シクロパミン)
  11. Zhang, W.; Lü, M.; Ren, L.; Zhang, X.; Liu, S.; Ba, M.; Yang, P.; Li, A. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 26569–26579. DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.3c06088 (UHP–TFAA、−20 °C。Daphniphyllum アルカロイド)
  12. Zhang, Y.-P.; Du, S.; Ma, Y.; Zhan, W.; Chen, W.; Yang, X.; Zhang, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2024, 63, e202315481. DOI: https://doi.org/10.1002/anie.202315481 (立体障害支配の下面選択的エポキシ化 87%。シヌロクモジン C)
  13. Ran, P.; Qiu, A.; Liu, T.; Wang, F.; Tian, B.; Xiang, B.; Li, J.; Lv, Y.; Ding, M. Nat. Commun. 2024, 15, 8877. DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-024-53049-z (電気触媒的エポキシ化。>99% 選択性)
  14. Zhang, Y.; Liu, M.; Zheng, X.; Gao, L.; Wan, L.; Cheng, D.; Chen, F. Nat. Commun. 2025, 16, 1064. DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-025-56371-2 (シプロテロン アセタート。バッチ/フロー両条件が公開されている)
【安全性・プロセス安全】
  1. Kubota, A.; Takeuchi, H. Org. Process Res. Dev. 2004, 8, 1076–1078. DOI: https://doi.org/10.1021/op049825+ (mCPBA に関する予期せぬ事故の報告)
  2. Yang, J.; Jiang, J.; Jiang, J.; Pan, X.; Pan, Y.; Ni, L. J. Therm. Anal. Calorim. 2019, 135, 2309–2316. DOI: https://doi.org/10.1007/s10973-018-7470-x (mCPBA の熱不安定性と動力学解析)
【手順集】
  1. Organic Syntheses, Coll. Vol. 9, p 564(16α-メチルコルテキソロンの合成。KHCO₃ 過剰添加、mCPBA の緩徐滴下、Na₂S₂O₃ クエンチ、安全シールドの記載あり). URL: http://www.orgsyn.org/demo.aspx?prep=CV9P0564
  2. Organic Syntheses 1998, 75, 153(含水 mCPBA を CH₂Cl₂ に溶かし MgSO₄ で乾燥してから用いる手順). DOI: https://doi.org/10.15227/orgsyn.075.0153
【書籍】
  1. Li, J. J. Name Reactions: A Collection of Detailed Mechanisms and Synthetic Applications, 6th ed.; Springer Nature: Cham, 2021. ISBN 978-3-030-50865-4. URL: https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-030-50865-4
  2. Bäckvall, J.-E., Ed. Modern Oxidation Methods; Wiley-VCH: Weinheim, 2004. ISBN 978-3-527-30642-8. URL: https://www.wiley-vch.de/en/areas-interest/natural-sciences/modern-oxidation-methods-978-3-527-30642-8
  3. 日本化学会 編/佐藤一彦・北村雅人 著『酸化還元反応』(化学の要点シリーズ 1), 共立出版, 2012. ISBN 9784320044067. URL: https://www.kyoritsu-pub.co.jp/book/b10008068.html
  4. 丸岡啓二・野崎京子・石井康敬・大寺純蔵・富岡清 編著『使える!有機合成反応241 実践ガイド』, 化学同人, 2010. ISBN 9784759811919. URL: https://www.kagakudojin.co.jp/book/b61776.html

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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